知っておきたい「ことわざ」30選

Day4：猿も木から落ちる ― 完璧を求めすぎない生き方

「猿も木から落ちる」ということわざは、誰でも知っているほど有名な日本の教えです。
その意味は、「どんなに上手な人でも、時には失敗することがある」というもの。

木登りの名人である猿でさえ、木から落ちることがある。
それならば、人間が失敗するのは当然のこと――という優しいメッセージが込められています。
このことわざは、完璧を求めて自分を追い詰めやすい現代人にこそ響く言葉です。

「猿も木から落ちる」は、中国の故事「塞翁が馬」などと同様、
古代から伝わる“失敗を恐れない心”を象徴する表現です。

日本では鎌倉時代の僧・道元が残した文献や、江戸時代の川柳にも登場し、
「上手の手から水が漏る」「弘法にも筆の誤り」などと同じ意味で使われてきました。

つまり、「誰にでも間違いはある。大切なのは、その後どう立て直すか」という
人生の真理を示しています。

現代社会では、「ミス＝悪いこと」と捉えられがちです。
学校でも職場でも、「間違えないこと」が求められる場面が多くあります。
しかし、完璧を目指すほど、私たちは自由に行動できなくなってしまいます。

「猿も木から落ちる」は、そんな心に“安心”をくれる言葉です。
誰にでもミスはある。大事なのは、その失敗を責めることではなく、
「次にどうするか」を考えることです。

失敗を恐れて行動を止めてしまうよりも、
挑戦して転ぶほうが、はるかに多くの学びがあります。

仕事の世界では、完璧な人はいません。
どんなプロフェッショナルでも、判断ミスや計算違いはあります。
しかし優れた人ほど、失敗を引きずらず、冷静に次の行動を考えます。

たとえば、プロのスポーツ選手がミスをしても、
その瞬間を分析し、次のプレーに集中する。
それが“プロ”の強さであり、再び木に登る力なのです。

つまり、失敗を恐れない人ほど成長し、
失敗を経験した人ほど、他人の痛みを理解できる。
これこそ「猿も木から落ちる」が伝えたい人間の成熟です。

このことわざを日常で生かすためのヒントをいくつか挙げましょう。

失敗は“恥”ではなく、“財産”です。
一度落ちたからこそ、見える景色があります。

「猿も木から落ちる」は、完璧を目指すよりも“人間らしく生きる”ことを勧める言葉です。
失敗を恐れず、次の一歩を踏み出す勇気こそが成長の原動力。

落ちることを恥じず、再び登る力を信じて。
今日も前を向いていきましょう。

・『故事ことわざ辞典』（小学館）
・『広辞苑第七版』（岩波書店, 2018）
・加藤周一『ことわざの智慧』（中公文庫, 2005）