知っておきたい「 ことわざ 」30選
Day14:「鳥なき里の蝙蝠」― 周囲に合わせて生きる知恵と限界
💬 はじめに
「鳥なき里の蝙蝠(こうもり)」ということわざは、
一見ユーモラスに聞こえますが、
人間社会の本質を突いた鋭い教えです。
意味は、「優れた人がいないところでは、平凡な人でも幅をきかせる」というもの。
また別の解釈では、「立場をころころ変えて、自分に都合よく立ち回る人」を皮肉る意味もあります。
状況に合わせて生きる“したたかさ”と、“節操のなさ”は紙一重。
このことわざは、世の中を上手に渡る知恵と、その限界を教えてくれるのです。
📜 ことわざの由来
このことわざの由来は、中国の故事『戦国策』に登場する寓話にあります。
ある時、鳥たちと獣たちが争っていました。
蝙蝠は「自分は鳥だ」と言って鳥側につき、
しかし鳥が不利になると「自分は獣だ」と言って獣側に寝返りました。
争いが終わると、鳥にも獣にも信用されず、孤立してしまった――
これが、「鳥なき里の蝙蝠」の原点です。
つまり、どちらにもいい顔をする人は、
結局どちらからも信頼を得られないという教訓です。
💡 「柔軟さ」と「節操のなさ」の違い
現代社会では、環境や人間関係に合わせて変化する“柔軟さ”が求められます。
しかし、それが行き過ぎると“蝙蝠的”な態度になってしまうことも。
柔軟さとは「相手や状況を理解して、自分の行動を調整する力」。
一方、節操のなさとは「その場の利益だけを優先して、信念を変えること」。
つまり、自分の軸を持ちながら周囲に合わせることが、
真の柔軟さであり、信頼を得るための鍵なのです。
💼 ビジネスに見る「蝙蝠的行動」
職場でも、「鳥なき里の蝙蝠」的な人は少なくありません。
上司には従順、部下には威張る。
場の空気によって意見を変える。
その場しのぎの発言で信頼を失う――これは典型的な“蝙蝠タイプ”です。
一方で、周囲の状況をよく見て行動を変える“適応力”は、リーダーに必要な能力です。
違いは「誠実さ」と「一貫性」。
短期的な利益を追うより、信頼を積み上げる人こそ、真の賢者と言えます。
🌱 日常での教訓
- その場しのぎではなく、信念を持つ – 一時の得よりも、長い信頼を選ぶ。
- 環境に合わせつつ、自分を見失わない – 柔軟さと自分軸のバランスを意識する。
- 謙虚でありながら、芯を通す – 誰の下でも誠実に対応する。
蝙蝠のように暗闇を飛び回るより、
少し不器用でも“光の下で堂々と生きる”ほうが、結果的に得をするのです。
🌸 おわりに
「鳥なき里の蝙蝠」は、どんな環境でも生き抜く知恵を教えてくれる一方で、
“信頼を失う危うさ”も示す言葉です。
状況に応じて変化する柔軟さと、
どんな時も揺るがない自分の信念。
この二つのバランスを保つことが、
現代を生きる私たちにとっての最大の課題かもしれません。
誠実さを忘れず、どんな場所でも堂々と羽ばたいていきましょう。
📚出典
・『戦国策』趙策(中国・戦国時代)
・『故事ことわざ辞典』(小学館)
・山本七平『人間の研究』(PHP研究所, 1981)
