知っておきたい「 ことわざ 」30選
Day16:馬の耳に念仏 ― 聞く気のない人には届かない
💬 はじめに
どんなに良い言葉をかけても、相手にまったく響かないことがあります。
そんな場面を表すのが「馬の耳に念仏(ばのみににんぶつ)」ということわざです。
意味は、「ありがたい言葉も、理解しようとしない人には効果がない」ということ。
つまり、聞く姿勢がなければ、どんな教えも意味をなさないという戒めの言葉です。
現代にも通じる「伝わらない努力」「響かない言葉」への教訓が、ここに込められています。
📜 ことわざの由来
このことわざは、仏教の教えから生まれました。
仏教では、「念仏を唱えることで救われる」と説かれていますが、
そのありがたい念仏を、理解できない“馬の耳”に唱えても意味がない――
というたとえ話から、「馬の耳に念仏」という言葉が広まりました。
江戸時代にはすでに一般的な慣用句となり、
「忠告しても聞く耳を持たない人」「何を言っても響かない相手」への皮肉として使われていました。
💡 「伝える」と「伝わる」は違う
現代社会でも、「言ったのに伝わらない」「何度説明してもわかってもらえない」
という場面は少なくありません。
しかし、「伝えたつもり」になっているだけで、
相手の心に届いていないことも多いのです。
「馬の耳に念仏」は、
単に“相手が悪い”という意味ではなく、
相手の立場や理解度を考えずに伝える側にも原因がある、という教えとしても解釈できます。
つまり、「伝わらない相手」を責める前に、
“どうすれば伝わるか”を考えることが大切なのです。
💼 ビジネスでの「馬の耳に念仏」
職場では、上司が部下に何度も同じ注意をしたり、
チーム内で情報共有しても、行動に反映されないことがあります。
そんなときこそ、「伝え方の見直し」が必要です。
・相手の価値観や状況を理解して話す
・命令ではなく「共感」を交えて伝える
・一度で伝わらないことを前提に、繰り返し丁寧に伝える
“聞く耳”を持たせるには、
“聞きたくなる言葉”で話す努力が欠かせません。
🌱 日常における教訓
- 相手の立場を想像する – 人は自分の関心事にしか耳を傾けません。
- 聞く準備を整えてもらう – 相手が忙しいときや感情的なときは、伝わりません。
- 伝えるより「気づかせる」 – 言葉より体験や行動が心に残ります。
相手の心が閉じている時は、どんな言葉も通じません。
タイミングと伝え方が、すべてを変えます。
🌸 おわりに
「馬の耳に念仏」は、単に“分かってくれない相手”を責める言葉ではなく、
伝え方の本質を問うことわざです。
聞く側に心がなければ、言葉は届かない。
でも、伝える側が工夫すれば、いつかその心に響くかもしれません。
今日の会話の中で、“伝えること”より“伝わること”を意識してみましょう。
それが、真に意味あるコミュニケーションの第一歩です。
📚出典
・『故事ことわざ辞典』(小学館)
・『仏教説話集』(岩波文庫, 1964)
・斎藤孝『伝える力』(PHP新書, 2009)
