Day23:広告と価格戦略(おとり効果など)

ユーザー心理から見る広告作成術

Day23:広告と価格戦略(おとり効果など)

広告の世界では「価格の見せ方」こそが購買行動を左右する最重要ポイントのひとつです。単に安いか高いかではなく、心理学的に「どう提示されるか」によって消費者の感じ方は大きく変わります。これを理解して設計された価格戦略は、広告の説得力を一段と高めます。

おとり効果(デコイ効果)

代表的な価格戦略が「おとり効果」です。人は複数の選択肢を比べるとき、単独で評価するのではなく「相対的な差」で判断しやすい傾向があります。
映画館のポップコーンの例は有名です。「小:300円」「大:700円」の場合、多くの人は「小」で十分と考えます。しかしここに「中:650円」を加えると、大が圧倒的にお得に見え、選択率が跳ね上がるのです。この「比較対象を操作して選ばせたい方向へ誘導する仕組み」がデコイ効果です。

アンカリング効果

次に「アンカリング効果」。人は最初に見た数値を基準(アンカー)にして、その後の価格を判断します。「通常価格1万円 → 特別価格5,000円」と表示すると、5,000円が安く見えるのは、頭に刷り込まれた「1万円」という基準が影響しているからです。
小売業やECサイトではこの手法が広く使われ、割引表示や「参考価格」がまさにアンカリングの活用例といえます。

チャーミングプライス(端数価格)

「980円」「1,980円」といった端数価格も心理戦略の一つです。1,000円より980円の方が「安い」と直感的に感じられるのは、人間が左側の数字に強く影響されるためです(左端効果)。これも広告と価格表示の相性が良いテクニックです。

高価格戦略とプレミアム効果

一方で、必ずしも安く見せることが正解ではありません。心理学には「価格=品質」という連想もあり、あえて高価格で提示することで「高級感」「信頼性」を演出できる場合があります。例えば化粧品や高級レストランは、安さよりも「価値ある投資」と感じさせる価格設定が効果を発揮します。

誠実さを欠かさない

ただし、これらの心理効果を乱用すると「騙された」と感じさせ、ブランドへの信頼を損なうリスクがあります。重要なのは、価格戦略を「誠実に」「本当に提供できる価値に即して」活用することです。おとり効果やアンカリングを使って一時的に売上を伸ばしても、過度な誇張や不誠実な値引き表示は長期的に顧客離れを招きます。


👉 学びのポイント

  • 価格表示は心理的効果を伴う
  • デコイ効果やアンカリングは強力な武器
  • 信頼を守りながら戦略的に活用することが大切

出典・参考

  • Ariely, D. (2008). Predictably Irrational. HarperCollins.(行動経済学の基礎としてデコイ効果を解説)
  • Kahneman, D. (2011). Thinking, Fast and Slow. Farrar, Straus and Giroux.(アンカリング効果に関する研究)
  • 日本マーケティング学会 編『マーケティングの心理学』(有斐閣, 2019)