Day5:行動経済学の基礎

ユーザー心理から見る広告作成術

Day5:行動経済学の基礎

広告やマーケティングを考える上で欠かせないのが 行動経済学 です。経済学と聞くと「数字や理論に基づき合理的に判断する学問」という印象を持つ方も多いでしょう。従来の古典派経済学は「人は合理的に行動する」という前提で成り立っていました。

しかし現実には、人間は驚くほど非合理的な行動をとります。衝動買いをしたり、無駄だとわかっていても宝くじを買ったり、将来のためよりも「今」の楽しみを優先したり…。こうした「人間らしい非合理性」を体系的に解き明かしたのが行動経済学です。広告はまさに人間心理を前提とした活動であり、両者の親和性は非常に高いといえるのです。


損失回避バイアス:損を避けたい心理

行動経済学で最も有名な概念のひとつが 損失回避 です。人は「1万円を得る喜び」よりも「1万円を失う痛み」を強く感じます。そのため広告で「得をする」よりも「損をしない」ことを強調する方が効果的な場合が多いのです。

「今だけ割引を逃すと損」「残りわずか、買えなければ後悔する」という訴求が心を動かすのは、この心理が背景にあります。ただし、誇張や虚偽の煽りは信頼を損なうため、事実に基づいた表現で使うことが重要です。


現在バイアス:未来より今を優先

もうひとつ代表的なのが 現在バイアス。人は「将来の利益」よりも「今すぐの利益」を過大評価する傾向があります。

例えばダイエット器具の広告では、「来月から痩せる」より「今日からすぐ始められる」と訴える方が響きます。クレジットカードの「今なら入会特典1万円分ポイントプレゼント」も同様で、将来の還元より「今すぐ得する」ことが行動を促すのです。


選択のパラドックス:多すぎると選べない

行動経済学者バリー・シュワルツが提唱した「選択のパラドックス」も広告に深く関わります。人は選択肢が多ければ自由だと感じる一方で、実際には「選べなくなる」「後悔が増える」という心理が働きます。

広告やECサイトで「100種類の中から選べます」と示すより、「おすすめ3選」「人気ランキングTOP5」と絞った方が、購買行動に直結しやすいのです。


行動経済学と広告戦略

行動経済学の知見を取り入れると、広告の説得力は大きく向上します。なぜなら、消費者は合理的に行動するのではなく、心理・習慣・無意識の偏りに従って選択をしているからです。

広告を作るときに「合理的に説明すれば伝わる」と考えるのは誤りです。人は「感情に響いたかどうか」で判断を下します。そのため、損失回避を利用した「今しかない」訴求、現在バイアスを利用した「すぐに効果を実感」コピー、選択のパラドックスを踏まえた「シンプルな選択肢提示」が効果を発揮します。


学びのポイント

  • 人は非合理的に行動する
  • 行動経済学は広告戦略に直結する
  • 消費者心理を理解することで「売れる」だけでなく「信頼を築く」広告が作れる

出典

  • Kahneman, D. (2011). Thinking, Fast and Slow. Farrar, Straus and Giroux.
  • Barry Schwartz (2004). The Paradox of Choice. Harper Perennial.