AIでなくならない仕事
Day6:カウンセラー・心理セラピスト ― 共感が不可欠

はじめに
AIによるチャットボットやカウンセリングアプリが普及しつつあります。気軽に相談できるという点で一定の価値がありますが、心の深い部分まで寄り添うことはできるのでしょうか。結論からいえば、心理的なサポートにおいては「共感」が欠かせず、この部分こそ人間のカウンセラーやセラピストの強みです。
AIカウンセリングの可能性と限界
近年、AIが搭載された相談アプリが登場し、日常的な悩みを聞いてくれるサービスもあります。AIは膨大なデータをもとに適切な言葉を返すことが可能です。しかし「それを聞いて安心するかどうか」は別の問題です。相談者が求めるのは正しい答えではなく「自分を理解してくれる人の存在」です。
AIは「こう答えると良い」というパターンに沿った返答はできますが、相手の声色や沈黙のニュアンスから本当の気持ちを汲み取るのは難しいのです。
共感が不可欠な理由
心理カウンセリングにおける最重要の基盤は「ラポール(信頼関係)」です。相談者が「この人は自分の気持ちを理解してくれている」と感じられることで、安心して心を開き、自分の感情を整理できるようになります。
アメリカの心理学者カール・ロジャーズは、来談者中心療法において「無条件の肯定的関心」「共感的理解」「自己一致」を重視しました。つまり、相談者を評価せず受け入れ、深い共感をもって寄り添う姿勢が、心の回復を促すのです。これはAIには真似できない、人間ならではの温かさです。
カウンセラー・セラピストの役割
- 感情を受け止める:言葉にできない気持ちをくみ取り、「わかってもらえた」と感じさせる。
- 安心を提供する:安全な場をつくり、心の傷を癒すサポートをする。
- 成長を促す:自己理解を深めることで、相談者が次の一歩を踏み出すきっかけを与える。
こうした働きは、アルゴリズムでは代替できません。むしろ、AIが一次的な相談窓口を担い、人間のカウンセラーが本格的な支援に集中する形が理想的でしょう。
共感力を高める工夫
カウンセラーに限らず、日常のコミュニケーションでも「共感する力」は役立ちます。
- 相手の表情や姿勢を観察する
- 自分の意見よりもまず相手の話を最後まで聞く
- 相手の言葉を要約して返す(リフレクション)
これらの習慣が、人間関係の信頼構築に直結します。AI時代を生きる私たちにとっても、共感力は最強のスキルのひとつです。
まとめ
心理カウンセリングやセラピーの本質は「共感」にあります。AIが効率的に情報を処理できても、人間の心の奥深くに寄り添うことはできません。だからこそカウンセラーやセラピストはAI時代にも必要不可欠な職業であり続けるのです。
明日は「看護師・介護士 ― 温もりのケアが残る理由」を取り上げます。
出典
- Carl R. Rogers, On Becoming a Person (1961)
- 日本臨床心理士会「心理職の役割と倫理」(2020年)