ユーザー心理から見る広告作成術
Day6:ストーリーテリングと広告効果
広告の世界で長年語られてきた真理のひとつに「人は事実よりも物語に心を動かされる」というものがあります。数値やデータ、商品のスペックは確かに重要ですが、それだけでは記憶に残りにくく、感情を動かす力も限られます。むしろ「その商品を通じてどんな体験ができるのか」「自分の人生がどう変わるのか」という物語を提示する方が、人々は強く共感し、購買意欲につながるのです。これこそがストーリーテリングの力です。

例えば、ある化粧品の広告を想像してみましょう。「ビタミンC配合、肌のキメを整える」といった機能的な説明は、確かに正確で魅力的に聞こえます。しかし、それだけでは他の商品との差別化が難しく、心に響きにくいのが現実です。これに対し、「仕事や育児で忙しく、寝不足で肌がくすみがち。でもこの化粧品を使ってから、朝鏡を見るのが楽しみになった」という体験談が紹介されると、同じ悩みを持つ人は思わず「自分もそうなりたい」と感じるでしょう。これは、広告の情報が「自分ごと」に変換された瞬間です。
ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)
ストーリーテリングを広告に組み込む際には、いくつかの型があります。その中でも最も有名なのが「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」です。これは神話学者ジョーゼフ・キャンベルが提唱した構造で、多くの映画や小説、そして広告にも応用されています。広告に置き換えると「悩みを抱える消費者(主人公)→商品やサービスとの出会い(助け)→問題解決→理想の未来」という流れになります。この型を取り入れると、単なる商品説明が「一人の人間の成長や変化の物語」へと昇華し、自然に心を引きつけます。
体験談
また、利用者の声を「体験談」という形で物語化することも非常に効果的です。多くの企業が導入しているレビュー広告やインタビュー記事は、この効果を狙ったものです。実際の利用者が「この商品に出会ってどう変わったのか」を語ることは、潜在顧客にとってリアルで説得力のある証拠となります。これは心理学でいう「社会的証明」にも通じ、人は他者の経験を参考にして行動を決める傾向があるため、特に強い効果を発揮します。
ストーリーを短時間で伝える
さらに近年では、SNSや動画広告を通じて「ストーリーを短時間で伝える」工夫が進化しています。例えば15秒の動画広告の中で「悩み→出会い→解決」という簡易ストーリーを挟むだけでも、広告の記憶定着率は大幅に向上するとされています。Googleの調査(Think with Google, 2018)によれば、感情を伴った広告は、単なる情報提供型広告に比べて2倍以上のエンゲージメントを生むことが確認されています。
誇張しすぎないこと
一方で注意すべき点は「誇張しすぎないこと」です。事実に基づかない作られた物語は、短期的には効果があっても、信頼を失うリスクが大きいのです。広告の役割は「人をだますこと」ではなく「商品やサービスの本来の価値を、相手にとって分かりやすい形で届けること」。そのためには、実際の顧客体験や正しい情報を基にした物語構築が不可欠です。
👉 学びのポイント
- 物語は感情移入を促し、購買行動を後押しする
- 「悩み→出会い→解決→理想の未来」という構成を商品体験に当てはめると効果的
- 利用者の声を物語化することで、強い共感と信頼が生まれる
出典・参考
- Joseph Campbell, The Hero with a Thousand Faces(1949)
- Think with Google「感情と広告効果に関する調査」(2018)
- Keller, K. L. (2016). Strategic Brand Management. Pearson